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最高裁判所第一小法廷 平成5年(行ツ)99号 判決

千葉県八日市場市イの一三八番地一〇

旧商号那須ハイランドワイン株式会社

上告人

那須コンサルタント株式会社

右代表者代表取締役

松村知雄

右訴訟代理人弁護士

横井治夫

千葉県銚子市栄町二丁目一番一号

被上告人

銚子税務署長 三條利弘

右指定代理人

小沢満寿男

右当事者間の東京高等裁判所平成三年(行コ)第一三〇号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成五年二月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人横井治夫の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達 裁判官 高橋久子)

(平成五年(行ツ)第九九号 上告人 那須コンサルタント株式会社)

上告代理人横井治夫の上告理由

本件は、上告人(原審控訴人、第一審原告)に対する被上告人(原審被控訴人、第一審被告)の更正等処分のうち、(一)上告人の昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度(昭和五四年三月期と略称、以下、同じ)の法人税の更正は期間制限に反する違法な処分がどうか、(二)昭和五七年三月期の法人税の更正は株式会社大洋興産(以下、大洋興産という)らの所得金額を上告人のものと誤認した違法な処分かどうか、の二点が争点となっている事案であるが、原判決は、判決に影響を及ぼすべき重要な事項について、判断を遺脱した理由不備あるいは法令の解釈適用を誤った違法があるので、到底、破棄を免れ得ないと思料する。以下に、順次、その理由を明らかにする。

第一、昭和五四年三月期の更正について

一、処分の経緯と争点

被上告人は昭和五九年三月三一日付で上告人の昭和五四年三月期の法人税額等の更正をした。法人税の更正は法定申告期限から三年以内の期間に制限されている(国税通則法七〇条一項一号)。例外として「偽りその他不正行為」(以下、不正行為という)により税額を免れたりした場合は法定申告期限から五年以内は更正ができるとされていた(昭和五六年法律第五四号による改正前の同法七〇条二項四号)。

上告人の昭和五四年三月期の法人税の法定申告期限は事業年度終了の日である昭和五四年三月三一日の翌日から二月以内(法人税法七四条一項)の昭和五四年五月三一日であった。昭和五九年三月三一付で行なわれた昭和五四年三月期の法人税額らの更正は昭和五四年五月三一日の法定申告期限から三年を経過した日以後になされたものであることは期間計算上、明白である。そこで、この場合、更正の期間制限の例外である「不正行為」があったか否か、が争点となっているのである。

二、原判決は、次に指摘するとおり、昭和五四年三月期について「不正行為」は存在していないことについての上告人の基本的主張に対する判断を遺脱した理由不備と更正の期間制限に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。

1.判断を遺脱した理由不備について

原判決は、次に述べるとおり、上告人の基本的主張に対する判断を遺脱した理由不備の違法がある。

(一) 先ず、昭和五四年三月期の更正に至る経緯を明らかにすると次のとおりである。

上告人は、物件A(明細は末尾添付別表1)の譲渡代金七億円のうち、借入金の元利合計額に相当する四億円を貸出銀行である当時の平和相互銀行千葉支店の上告人名義口座に振込入金を受けた借入金の返済に充当した残額三億円は千葉銀行八日市場支店の上告人名義の普通預金口座に振込入金を受けた(第一審における被上告人の準備書面(一)10頁)うえ、「借方 普通預金、貸方 仮受金」の仕訳処理をした。そして、上告人は、物件Aの譲渡益を大洋興産、七割、上告人、二割、株式会社千葉農林(以下、千葉農林という)、一割の割合で三社に配分した計算明細(当初、上告人、一割、千葉農林、二割と誤記)を記載したメモを作成するとともに上告人に帰属する収入金額を記帳計上し、大洋興産と千葉農林に配分された金額を未払金として記帳処理した確定決算に基づく確定申告書(乙三七号証)を法定申告期限内に提出し、当初の計算誤りについても修正申告をした(乙三八号証)。

一方、大洋興産と千葉農林の二社は右の配分金額の受入記帳をしていない。その理由は、次に指摘する特別の事情に基づく担当者の事務上の過誤によるものである。その事情は、上告人とは全く関係のないものであり、もとより、上告人との通謀による仮装ではない。他の二社が上告人の記帳処理と異なる処理をしたのでは通謀による仮装にはならないことは当然だからである。

大洋興産、上告人及び千葉農林三社の記帳処理は、篠原和男税理士事務所々員の島田薫(以下、島田という)が担当し、各決算期ごとに原始記録を収集整理して記帳処理を行なっていた。昭和五四年二月一三日に残代金の決済が行なわれた物件Aの譲渡収入について、毎年三月末日を決算期としている上告人の場合は、昭和五四年三月期に帰属するので、島田は、法定申告期限である昭和五四年五月末日までに前記の記帳処理をしたうえ、それに基づく確定決算をして確定申告書を提出した。一方、大洋興産と千葉農林の両社は毎年一二月末日が決算期だったので、島田は、法定申告期限である昭和五五年二月末日までに両社の記帳処理などをする予定でいたところ、昭和五四年一一月以降、当時の大洋興産の社長であった宇野享(以下宇野という)に対する公職選挙法違反容疑の搜査が開始され関連三社等の帳簿、証拠書類等が搜査当局に押収されたうえ、宇野は病気入院中で面会謝絶の状態が続く一方、関係者の取調べが継続して行なわれ、さらに、島田も胃かいよう等で通院加療する状態が続いた(甲八号証の 一、二)ため、大洋興産と千葉農林の両社について物件Aの譲渡配分益の計上処理をすることができなかった。この事実は、両社の場合、昭和五五年二月末に概算の損益計算書を添付した確定申告書だけを提出した異例の処理がなされていることによって如実に裏付けられている。そして、島田は、事後処理などに忙殺されて両社の物件Aの譲渡配分益の計上処理を失念したまゝに経過し、上告人に対する法人税調査の際、調査官から指摘を受けて右の計上処理をしていないことに気付いて修正申告書を作成提出したのである(以上、第一審における島田の証言((以下、島田証言と略称)))。

(二) 次に、昭和五四年三月期についての被上告人の更正の理由は以下のとおりである。

被上告人は、「七・二・一」の割合による収益配分について、関連二社が受入記帳をしていないので、その配分は実際に行なわれたものではなく「仮装」と認定し、その「仮装」が「不正行為」に当たるとして期間制限の例外規定を摘要して更正をした。

この事実は、次に述べるとおり、更正理由の記載内容によって明確に裏付けられている。

すなわち、被上告人は、「七・二・一」の割合による収益配分について、関連二社が受入記帳をしていない昭和五四年三月期の更正理由では「仮装計上」処理と記載している(甲一号証、三枚目「更正の理由」8、9行)一方、関連二社が受入記帳をしている昭和五七年三月期の場合は単に「収入に計上」としている(甲二号証、三枚目「更正の理由」9行)のみで「仮装」とは記載していない。つまり、被上告人は、「七・二・一」の割合で収益を配分し、他の二社が受入記帳している場合は、その配分が実際に行なわれたと認定し単なる過少申告として取り扱っている一方、他の二社が受入記帳をしていない昭和五四年三月期については、「七・二・一」の割合による収益の配分は実際に行なわれたものではなく「仮装」と認定し「不正行為」として処理しているのである。このように、被上告人は、「七・二・一の割合による収益の配分」ではなく、「他の二社の受入記帳」の有無によって認定を異にし、その「受入記帳がない」場合は、実際の収益配分ではなく「仮装」と認定していることは明らかである。

さらに、右に指摘したことは、被上告人の加算税と類似事例の取扱内容によっても裏付けられている。

すなわち、被上告人は、昭和五七年三月期について、「七・二・一の割合による譲渡益の配分」は「隠ぺい仮装」ではなく単なる過少申告として過少申告加算税を賦課している一方、収入を全く計上していない「隠ぺい仮装」行為に基づくものには重加算税を賦課している(甲二号証、一枚目右下の計算明細、四、五枚目「更正の理由」2)。また、被上告人は、「七・二・一の割合による譲渡益の配分」を否認した千葉農林の昭和五一年一二月期の更正理由において、上告人の昭和五七年三月期と同様、「仮装」ではなく単なる「過少申告」と認定している(甲三号証)うえ、同事案の訴訟において、「七・二・一の割合による譲渡益の配分」事例について「法定申告期限から三年以上経過するなどしているため更正することができなかった」旨を主張している(甲四号証の一、二)。これは、「七・二・一の割合による譲渡益の配分は“不正行為”に基づくものではない」ことを被上告人自らが確認したものてあることはいうまでもない。「不正行為」に基づく場合は法定申告期限から三年以上経過していても更正することができるからである。

(三) 右の(二)で明らかにしたとおり、被上告人は、「七・二・一」の割合による譲渡収益の配分について関連二社が「受入記帳をしていない」昭和五四年三月期の場合、その配分は実際に行なわれたものではなく「仮装」と認定し「不正行為」として処理している。しかし、「受入記帳をしていない」のは、関連二社のことであって上告人とは全く関係はなく、もとより、上告人との通謀による仮装ではない。そうすると、「関連二社が受入記帳をしていない」ことは上告人の「不正行為」でないことは明らかであるから、それを理由とする更正は期間制限に反する違法な処分で許されない。

これが更正の期間制限違反についての上告人の基本的主張である。ところが、第一審判決は、これについて一言もふれていない。そして、第一審判決を相当としている原判決も同様、全く言及していない。

右に要約した上告人の主張は、昭和五四年三月期について上告人の「不正行為」は存在しないので法定申告期限から三年を経過した後に行なわれた更正は期間制限に反した違法な処分であることを明らかにした基本的理由である。これについて全く言及しないまゝ上告人の主張を排斥している原判決は、判決の結論を左右する重要事項についての判断を遺脱した理由不備の違法があることは多言するまでもない。

2.法令の解釈適用の誤りについて

原判決は、以下に指摘するとおり、更正の期間制限に関する法令の解釈適用を誤った違法である。

(一) 前記1、(二)で明らかにしたとおり、被上告人が昭和五四年三月期について「不正行為がある」と認定した根拠は関連二社が配分された収益の「受入記帳をしていない」ことであった。しかし、それは、関連二社のことであって、上告人とは全く関係はなく、もとより、上告人との通謀による仮装ではない。

この点について、上告人は、第一審において詳細かつ明確に主張、立証を尽くした。その結果、被上告人は「他の二社が受入記帳をしていない」ことを「不正行為」の根拠とすることができなくなった。そこで、被上告人は、窮余の策として「七・二・一の割合による収益の配分は“不正行為”である」と主張するに至ったのである(第一審における被上告人の準備書面(四)参照)。

しかし、右の被上告人の主張は、次に述べるとおり、他の場合についての主張と明らかに矛盾するもので主張自体、失当である。

すなわち、被上告人は、「物件Aの譲渡益は全角、上告人に帰属するのに、上告人は、その二割相当学だけが自社に帰属し、残りの八割相当額は大洋興産(七割)と千葉農林(一割)に帰属すると偽った」ことが「不正行為」であると主張している(第一審における被上告人の準備書面(四))。その一方で、被上告人は、昭和五七年三月期の場合、「上告人は、本来、全額、自社に帰属すべき物件B、C(各明細は末尾添付別表2、3)の譲渡益のうち、二割相当額だけを自社の収益とし、残りの八割相当額は大洋興産(七割)と千葉農林(一割)に振り替えた」と主張している(同(一)13~15、22頁)。このように、被上告人は、「譲渡益を七・二・一の割合で配分した」同じケースについて、一方は「偽った」とし、他方は、偽ったのではなく、「振り替えた」としているのであるから、その主張は相互に矛盾していることは明らかであって主張自体、失当であることは多言するまでもない。

そして、この点は、更正理由の記載内容及び加算税と類似事例の取扱内容によって裏付けられていることは前記1、(二)で詳述したとおりである。

(二) 第一審判決は、「七・二・一の割合による収益の配分は“不正行為”である」としている被上告人の主張を、そのまゝ矛盾した主張をそのまゝ認容しているのである。

しかし、その主張自体に矛盾があって失当であることは右の(一)で詳述したとおりである。第一審判決は、この点について、一言もふれず、判断を示さないまゝ、矛盾した主張をそのまゝ認容しているのである。

そして、次に述べるとおり、昭和五四年三月期の場合、「七・二・一の割合による収益の配分」は「不正行為」に該当するものではない。

本件の場合、上告人は「自社に配分された二割相当額の譲渡益を申告した」のに対し、被上告人は「譲渡益の全額が上告人に帰属する」と認定している。このように、課税庁の認定金額より少ない所得金額を申告した場合、そのすべてが「不正行為」に該当するものでないことはいうまでもない。そのような過少申告のなかには、課税庁との「見解の相違」に基づくものなどが含まれていることは当然であり、そのような行為は「偽りその他不正の行為でない」ことは明らかだからである。そのような単なる過少申告については、原則期間内における更正がなされるとともに過少申告加算税が賦課されることになる。

このような単なる過少申告と「不正行為」を区別する基準は「納税者が真実の所得を秘匿し偽りの工作的不正行為をした」か、どうか、ということである。この点は被上告人が援用している判例(昭51・6・30福岡高裁判決、行政事件裁判集27巻6号975頁)からしても明らかである。

右の判例の事実は、「解撤船の権利の売買とその“あっせん”による所得を全部除外して申告した」ケースであり、しかも、「その所得がわからないようにして契約書、領収証などの資料もかくしていた」場合である。このように、「納税者が真実の所得を秘匿し偽りの工作的不正行為をした」場合、それが「不正行為」に該当するのである。

一方上告人は、前記1、(一)で明らかにしたとおり、昭和五四年三月期における物件Aの譲渡収入金額の全額を銀行口座を経由して受入処理をしたうえ、三社間の譲渡益の配分について明確に記帳して決算を行ない、これに基づく確定申告及び計算誤りについての修正申告をしている。このように、上告人は、物件Aの譲渡収入金額の入金と配分のすべてを明確に記帳し、それに基づく確定申告をしているのであるから「真実の所得を秘匿し偽りの工作的不正行為をしていない」ことはいうまでもない。そうすると、本件の場合、上告人の行為として「不正行為」に該当するものは何ら存在していないことは明らかである。

(三) 原判決、「第一審判決は相当であって本件控訴は理由がない」は判示しているが(4丁)、右の(二)で指摘した上告人の主張については、わずかに、加算税の取扱内容にふれている(3丁裏)のみで、その余については何ら言及していない。この事実は、原判決が、加算税の取扱内容を除くその余の指摘を排斥する理由を見出し得なかったことを如実に示している。もし、排斥する理由があったとすれば、当然、その判示をしたはずだからである。

そして、原判決が言及している加算税の取扱内容についての判示は、次の述べるとおり、明らかな誤りである。

原判決は「法七〇条(昭和五六年法律第五四号による改正前のもの)二項四号の「偽りその他不正の行為」と法六八条の「隠ぺい」「仮装」とは、その他の要件及び効果を異にするものであって、具体的事案において常に軌を一にして適用されねばならない理由はなく、被控訴(上告)人が右とは事業年度の異なる昭和五七年三月期の控訴(上告)人の法人税の更正や納税義務者の異なる千葉農林の昭和五一年一二月期の法人税の更正を行った際にこれらの者に重加算税の賦課決定処分を行なわなかったことは、前記判断の妨げとはならない」と判示している(3丁裏、4丁)。しかし、重加算税の課税要件である「隠ぺい仮装」と更正の制限期間延長要件である「不正行為」の具体的内容は相互に一致していることは被上告人も認めている(原審における被上告人の準備書面(一)11頁)とおりである。たゞし、両者は別個の法律要件として規定されていることから、別個独立して判断の対象となるのであり、被上告人の援用している判例(昭46・3・19名古屋地裁判決、訟務月報18巻12号210頁)も、そのことを明らかにしている。すなわち、右の判例は「裁決で重加算税賦課決定が取り消されている場合、課税庁は再び重加算税賦課決定ができないという拘束を受けるにすぎず、更正期間制限の観点からは何らの拘束を受けるものではない」と判示している(同110頁)。これは、両者の要件は、別個、独立のものであるから、一方の裁決取消しによって他方が拘束を受けることはない、という当然の事理を明らかにしたものであり、判断の対象となる事実の具体的内容が異なることを指摘しているものでないことはいうまでもない。

前述したとおり、被上告人は、昭和五七年三月期の「七・二・一の割合による収益の配分」について重加算税を賦課していない。つまり、被上告人は、それが「隠ぺい仮装ではない」と認定しているのであるから、その同じ行為を「不正行為ではない」と認定していたことは多言するまでもない。もし、「不正行為と認定していた」のであれば、当然、重加算税を賦課したはずだからである。この点は、被上告人が援用している福岡高裁判例(昭51・6・30、行政事件裁判集27巻6号975頁)の事案で「不正行為」と認定したものについて重加算税を賦課している(同986頁)事実が何よりも雄弁に物語っている。

そうすると、両者の要件、効果の相違を根拠とする原判決の判示は法令の解釈適用を誤ったものと言うほかはない。

このように、「七・二・一の割合による収益の配分は“不正行為”に当る」旨の第一審判決を相当としている原判決は「不正行為」を定めた国税通則法の規定の解釈適用を誤っていることは明らかである。

3.昭和五四年三月期についての更正は期間制限に反した違法な処分である。

これまでに指摘したところによって明らかなとおり、上告人の昭和五四年三月期について「不正行為」は何ら存在していないのであるから、同期の法人税額等の更正は法定申告制限(事業年度終了の日の翌日から二月以内、法人税法七四条一項参照)である昭和五四年五月三一日から三年を経過した日以後においては、することができないことはいうまでもない(国税通則法七〇条一項一号参照)。被上告人は昭和五九年三月三一日付で上告人の昭和五四年三月期の法人税額等の更正をしているが(甲一号証参照)、それは、昭和五四年五月三一日の法定申告期限から三年を経過した日以後になされたものであることは期間計算上、明白であるから、国税通則法七〇条一項一号所定の更正の期間制限に反した違法な処分であることは多言するまでもない。

何故、被上告人は、このような更正の期間制限に反した違法な処分をしたのか、その理由は、法定申告期限から三年以上を経過した昭和五九年三月三一日付で上告人の昭和五四年三月期についての更正を強行するためであった、としか考えられない。すなわち、被上告人は昭和五八年末から同五九年初めにかけての調査で昭和五四年三月期の「七・二・一の割合による譲渡益配分」の明細を把握したと解されるが、従来の取扱と同様に単なる「計上もれ」とすると、既に法定申告期限の昭和五四年五月三一日から三年以上を経過していたので更正はできないことになる。そこで、被上告人は、大洋興産と千葉農林の両社が譲渡益の受入記帳をしていないことを利用し「七割と一割の合計八割を二社に配分したと仮装した」それが「不正行為」である、という「こじつけ」をした。そのように「こじつけ」をすれば、法定申告期限から五年以内は更正ができることになるからである(当時の国税通則法七〇条二項四号参照)。こうして、被上告人は更正の期間制限に反する違法な処分をするに至った、と解されるのである。

第二、昭和五七年三月期の更正について

原判決は、「昭和五七年三月期の更正は大洋興産らに帰属する譲渡益を上告人に帰属すると誤認した違法な処分である」旨の上告人の主張を排斥し「適法な処分である」として「第一審判決は相当であって、本件控訴は理由がない」と判示している(4丁)。しかし、次に述べるとおり、原判決は、判決に影響を及ぼすべき重要事項について、判断を遺脱した理由不備と法令の解釈適用を誤った違法がある。

一、先ず、事実経緯の概要と争点を要約すると次のとおりである。

物件B及びCの譲渡収益は「七・二・一」の割合で大洋興産、上告人及び千葉農林に配分されたので、上告人は自社配分額の二割相当額を益金の額として計上処理した。これは、実質上の権利者であった大洋興産が、その譲渡収益を権利者七割、名義提供者二割、関連会社一割の割合で配分したことによるものである。これに対し、被上告人は、物件B、Cの譲渡収益は全額、上告人に帰属すると認定して更正をした。そこで、上告人は、名実ともに物件B、Cの権利者なのか、それとも、単なる名義人で実質上の権利者は大洋興産なのか、が争点となっているのである。なお、昭和五四年三月期の更正は期間制限に反する違法な処分であることは前記第一で明らかにしたが、その場合の物件Aについても右に指摘した物件B、Cの場合と同様である。

二、判断を遺脱した理由不備について

原判決は、次に述べるとおり、判決に影響を及ぼすべき重要事項についての判断を遺脱した理由不備の違法がある。

1.物件取得の経緯について

原判決て次の指摘するとおり、「物件A、B及びCの実質上の権利者は大洋興産で上告人は単なる名義人にすぎないことは物件取得の経緯が裏付けている」ことを明らかにした上告人の主張に対する判断を遺脱したまゝ第一審判決を相当とする理由不備の違法をおかしている。

(一) 先ず、第一審における上告人の主張を要約すると次のとおりである。

大洋興産は、国華酒造株式会社(以下、国華酒造という)に対する資金援助の担保として物件Aのうち所有地について極度額五〇〇〇万円の根抵当権を設定するとともに右抵当債務の不履行を停止条件とする代物弁済契約を締結して右の根抵当権設定登記と停止条件付所有権移転仮登記を経由し、さらに、ローズウィスキー株式会社(以下、ローズウィスキーという)の債務一〇二八万一〇〇〇円を代位弁済して抵当権の移転を受けていたが、上告人名義の一億円の借入に伴なう根抵当権設定登記等の経由に際し前記の根抵当権等の各順位を貸出銀行に譲渡して、その旨の各登記を経由するとともに前記の仮登記を抹消した(乙三、四号証)。

この根抵当権と抵当権の各順位の譲渡及び仮登記の抹消について大洋興産は何らの代償を得ることなく無償各債権を放棄しているが(第一審における宇野の証言((以下、宇野証言と略称)))、これは次に述べる事事情によるものである。すなわち、大洋興産は、ローズウィスキーの要請に応じて一億円の資金援助を追加するに際し同社が国華酒造から譲り受けていた右の所有地と借地(物件A、B、Cの各借地)の権利を譲り受けることになり、右所有地を担保として当時の平和相互銀行千葉支店に右の追加資金の借入を申し込んだが、同銀行から貸出枠との関係で他の名義上の借主に対する貸出実行を示唆されて上告人を名義上の借主とし、名義上の借主となる上告人を担保物件の登記簿上の所有名義人にするため右所有地について上告人への所有権移転登記を経由したのである。このように、上告人は単なる名義人にすぎず、物件A、B、Cの実質上の取得者は大洋興産であった。そのため、大洋興産は、無償で、前記の根抵当権等の各順位を貸出銀行に譲渡するとともに停止条件付所有権移転仮登記を抹消して各債権を放棄したのである。実質上、自社の所有に帰した物件に対し根抵当等債権を保有することは条理上あり得ないからである(宇野証言)。つまり、当初の予定どおり根抵当等債権者である大洋興産が担保物件の所有権者となった場合、その債権は混同によって消滅するが、貸出銀行の示唆によって上告人を名義上の所有権者としたため、大洋興産の根抵当等債権が形式上、残ることになったので、同社は、それを無償で放棄したのである。もし、上告人が名実ともに所有権者であれは、当然、弁済をして大洋興産の根抵当等債権を消滅させるはずであるが、そのような処理がなされていないことは、上告人が名義人にすぎず、大洋興産が実質上の所有権者であったことを何よりも雄弁に物語っていると言うことができるのである。

(二) 第一審判決は、右の根抵当権等の順位の譲渡及び仮登記の抹消に至る経緯を認定している(36~38丁)のみで、大洋興産が「無償で債権を放棄した」理由に関する上告人の主張についての判断は何ら示していない。何故、第一審判決は、その判示をしなかったのであろうか。その理由は、上告人の主張を排斥する論拠を見出すことができなかったからである。としか考えられない。そうでなければ、上告人から単なる名義人にすぎない論拠として明確に主張している事実(第一審における同準備書面(六)8~10丁)に対する判示を避けるはずはないと解されるからである。

上告人は、原審において、この点を再三にわたり明確に主張した(同準備書面(一)8丁裏~10丁裏、同(二)8丁裏、9丁)。それにもかゝわらず、原判決、この点について一言もふれないまゝ、第一審判決を相当と判示している。

上告人の右の主張は、上告人が単なる名義人にすぎない論拠として、第一審以来、一貫して明確に指摘してきたもので、上告人が単なる名義人にすぎないか否かの判断を左右する重要事項に関する主張であることはいうまでもない。そのような上告人の主張に対する判断を遺脱したまゝ第一審判決を相当としている原判決は判決に影響を及ぼすことが明らかな重要事項についての判断を遺脱した違法があると言うほかはない。

(三) また、第一審における上告人の準備書面(五)(5丁)で明らかにしたとおり、ローズウィスキーから譲り受けた借地の地主との賃貸借契約において、大洋興産は契約締結後三年以内における転貸借又は賃借権譲渡の相手方の指定権を取得した(乙二七号証、宇野証言)。この事実は上告人が単なる名義だけの借主にすぎず実質上の借主は大洋興産であったことを如実に裏付けている。実質上の借主でなければ借地権の処分に関する指定権を取得するはずはないからである。

この点について、第一審判決は、大洋興産が右の指定権を取得したことは上告人が名実ともに借地権者であったことを左右するものではないと認定し、その理由として「大洋興産は不動産業務を目的とする会社であったのに対し上告人は当時、宅地の賃貸の代理又は媒介等を目的としていなかった」ことなどを挙げている(43~44丁)。しかし、借地権の転貸又は譲渡は、権利者であれば、だれでも自由にできることであって、賃貸借の代理又は媒介業者に限られるものではないから、右の理由は根拠を欠く誤りであると言うほかはない。

上告人は、原審において、この点も再三にわたり明確に主張した「同準備書面(一)10丁裏、11丁、同(二)9丁)。ところが、原判決は、この主張について一言もふれていない。この点においても、原判決は判断を遺脱した違法がある。

2.「七・二・一」の割合による収益配分について

原判決は、次に述べるとおり、「七・二・一の割合による収益配分は上告人の名義提供に伴なうものであって租税負担を回避するためではない」ことを明らかにした上告人の主張に対する判断を遺脱したまゝ第一審判決を相当とする理由不備の違法をおかしている。

先ず、第一審における上告人の主張を要約すると次のとおりである。

次に指摘するとおり、「七・二・一」の割合による譲渡益の配分は上告人の「名義貸し」に伴なう例外措置であって租税負担を回避するためではない。すなわち、上告人は、土地の譲渡収益を関連会社に分散して利益を圧縮し租税負担を回避していたのではなく、名実ともに自社の取引分は当然、全額を自社の収益に計上した確定決算に基づく申告をして相応の租税を負担していたのである。例えば、上告人は、昭和四六年三月期に「木更津大久保」所在の土地を合計二億六三〇二万五五九四円で取得したが、翌、昭和四七年三月期に同所中越所在地三〇四万四六二八円を残して他を売却した金額を売上金額に計上し、これに基づく決算をして申告済である(甲九号証の一~三)。上告人の場合、このような処理をするのが原則であるが、例外的に「名義貸し」をした場合は、権利者七割、名義提供者二割、関連会社一割の割合による譲渡益の配分処理をしていたのである。「名義貸し」は、上告人が那須ハイランドワイン株式会社の商号に変更した当初、独自取引をする能力がなかった当時、例外的に行なわれていたのであるが(島田証言)、その場合に限って「七・二・一」の割合による譲渡益の配分が行なわれていたのである。このように、「七・二・一」の割合による譲渡益の配分は「名義貸し」に伴なう例外措置であって租税負担の回避を意図したものでないことは多言するまでもない。

上告人は、第一審において、この点を明確に主張した(同準備書面(六)13丁~14丁)。ところが、第一審判決は、これに対する判断を示していない。第一審判決、「上告人は七・二・一の割合による収益配分によって租税負担を免れた」旨の判示をしている(50丁裏等)。右の上告人の主張は、その判示に反する具体的な指摘であるから判決に影響を及ぼすことが明らかな事項についての主張であることはいうまでもない。第一審判決は、それに対する判断を遺脱しているのである。

原判決は、その点にふれないまゝ、第一審判決を相当と判示しているのであるから、判決に影響を及ぼすことが明らかな重要事項についての判断を遺脱した違法があると言わざるを得ない。

三、法令の解釈適用の誤りについて

原判決は、次に述べるとおり、法人税法一一条に明示されている実質所得者課税の原則の解釈適用を誤った違法がある。

原判決は、「上告人が外形上の取引主体であることを理由に本件取引の収益は名実ともに、すべて上告人に帰属する」旨の認定をした第一審判決(34丁裏~47丁等)を相当と判示している。しかし、これは、以下に指摘するとおり、明らかに実質所得者課税の原則の解釈適用を誤ったものである。

第一審において、上告人が詳細かつ具体的に指摘した(同準備書面(五)等)とおり、物件A、B、Cの取得、保有及び譲渡のすべてについて、実質上の取引主体は大洋興産であって上告人に単に取引の名義を提供したにすぎない。このように、大洋興産が実質上の取引主体であったことは、物件A、B、Cの譲渡収益を大洋興産が享受し、これを処分している動かし難い事実によって如実に裏付けられている。すなわち、物件A、B、Cの各譲渡収益は、すべて実質上の権利者である大洋興産に帰属し、大洋興産は、権利者である自社が七割、名義提供者の上告人は二割、関連会社の千葉農林は一割の「七・二・一」の割合で三社に各譲渡収益を配分した。これに伴ない、各物件の形式上の名義人であった上告人は、右の配分割合により、大洋興産、七割、千葉農林、一割の合計八割相当額を両社に振替処理をした。なお、物件Aについて の大洋興産と千葉農林両社に対する合計八割相当額の振替処理について両社が受入処理をしていなかったの は、やむを得ない事情による会計担当者の事務上の過誤によるものであることは前記第一、二、1、(一)で詳細かつ具体的に指摘したとおりである。

いうまでもなく、租税制度は経済的生活現象の上に樹立せられており、法人税の課税要件も又かゝる事象に基礎をおいているから、右事象の観察には法律上の形式に捉われることなく、その実質を考慮すべきものであることよりすれば、事象は実際に即して考慮すべきであって、もし選ばれた法律上の形式と実際の内容が異なる場合には後者が前者に優先して判断せらるべきである。従って、課税処分は、登記名義が備わっているというような形式ないし外観にとらわれることなく、実質的な所有権帰属者-所有権が譲渡され、それによって所得が生じた場合には、その実質的な所得の帰属者-に対してなされるべきものであり、その認定は、当然、実体的法律関係、経済的な実質関係をも考慮して行なわれねばならないのである。結局、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして法人税法の規定を適用することになるのである。右のいわゆる実質所得者課税の原則は、法人税法一一条に明示されていることはもとより、既に、多くの判例が明確に判示しているところである(昭33・7・12大阪地方三〇(行)六六 行集九巻七号一三八一頁等)。

このような実質所得者課税の原則に照らして本件をみた場合、物件A、B、Cの取得、保有、譲渡のいずれの面からしても、経済的実質上の取引主体は大洋興産であって上告人は単なる名義人にすぎず、譲渡収益は大洋興産が享受しているのであり、「上告人は名実ともに取引主体である」旨の第一審判決の認定(42丁裏)は実質所得者課税の原則に反する明らかな誤りである。

第一審判決は、昭和五七年三月期の譲渡収益の配分について「上告人が大洋興産(七割)及び千葉農林(一割)に振り替えた収益及び費用の額は法人税法上の寄付金に該当すると認められる」旨の認定をしている(54丁裏)。しかし、上告人が右の譲渡益を「大洋興産と千葉農林の両社に寄付した」と認められるような事情は一切、見当らないばかりか、そのように「譲渡収入の八割相当額」を、それに対応する「譲渡原価とともに寄付した」ということ自体、余りにも、実態と「かけ離れた」ものであって実際にあり得ることではない。営業活動によって得た収益の大部分を占める八割も他社に寄付していたのでは、その会社の営業目的に従った合理的経済活動をすることができなくなる。そうすると、「収益の八割相当分を他社に寄付する」ということは、およそ、営利企業の行為として実際にあり得ることではなく経済的実質に反するものであることは条理上も当然であると言わざるを得ないからである。

もし、第一審判決の認定が正しく合理的であるならば、右に指摘した不自然、不合理な結論は出てくるはずはない。つまり、「譲渡益は全額、上告人に帰属する」という認定をすると、その「八割相当額を大洋興産と千葉農林に配分した」のは何故か、換言すれば、上告人が「譲渡益の二割しか享受していない」のは何故か、その理由を説明しなければならないことになる。ところが、それを合理的に説明する理由は見当たらない。そこで、「譲渡益の八割を他社に寄付した」という経済的実質に反する不合理極まりない理由を持ち出して認定の誤りを「ごまかす」ほかはないのである。この点からしても、「譲渡益の全額が上告人に帰属する」という第一審判決の認定の根幹に致命的な誤りがあることは如実に裏付けられていると言うことができるのである。

原審において、上告人は右の点を再三にわたり詳細かつ具体的に明らかにした(同準備書面(一)11丁~13丁裏、同(二)9丁裏~10丁裏)。ところが、原判決は、上告人の右の指摘について一言もふれていないまゝ第一審判決を相当と判示しているのであるから、実質所得者課税の原則の解釈適用を誤った違法があることは明らかである。

第三、結論

以上に詳述したとおり、原判決は、判決に影響を及ぼすべき重要な事項について、判断を遺脱した理由不備あるいは法令の解釈適用を誤った違法があるので、到底、破棄を免れ得ないと思料する。

前記の第一で指摘したとおり、昭和五四年三月期についての更正は期間制限に反した違法な主文であるから当然、取り消されるべきである。

昭和五七年三月期についての更正は、大洋興産に帰属する譲渡益を上告人に帰属すると誤認した違法な処分であることは前記の第二で明らかにしたとおりであるから、前同様に、取消しを免れ得ない。なお、「七・二・一」の割合による配分基準は、所有者、名義提供者及び関連会社の各寄与分に応じて予め、定められていたものであるが、仮に百歩を譲って、その配分基準は根拠がないとされた場合においても、物件A、B、Cの譲渡収益は実質上の取引主体である大洋興産に帰属していることについては何らの影響を及ぼすものでないことはいうまでもない。従って、その場合においても、譲渡収益の全額が上告人に帰属しているとしている本件更正処分は事実を誤認したもので違法であることにかわりはないのであるから、同様に、取り消されるべきである。

昭和五八年三月期についての更正は、いずれも、違法な処分で取消しを免れ得ない右の二期分の更正を前提として行なわれたものであるから、右の二期分の更正の取消しに伴ない当然に取り消されるべきであると思料する。

以上

別表1 物件A

〈省略〉

別表2 物件B

〈省略〉

別表3 物件C

〈省略〉

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